靴跡の花




 私はいつもあなたの後を追いかけていた。

 吐息が白く染まる頃になると、外に出たがらない私を置いて、あなたは先へ行ってしまう。振り返らないその背中を見上げて、私は急に不安に駆られた。

 扉の向こうは一面の銀世界。
 さくり、さくりと純白の地を踏みしめる音を聞きつけて、私はその後を追う。
 あなたがつけた靴跡。幾度も同じように冬を越して、一目で見分けることができるようになってしまった。
 あなたの靴跡の上に、私はそっと足を乗せる。私の足跡をすっぽり包んでしまう、大きな跡の上に。

 耳のちぎれそうな寒風の吹きつける冬。
 足の裏から凍りつきそうな、冷たい雪。
 私はどちらも大嫌いだった。
 でも、あなたの靴跡を踏みしめる、その時だけが幸せだった。

 そして、いつしか靴跡は二組になった。
 あなたの隣を歩む、一回り小さな靴跡。
 それでも私は、あなたの後を追いかけることをやめなかった。

 やがて、靴跡はもう一組増えた。
 二つの跡の間を歩む、とても小さなもう一つの足跡。

 靴跡が増えるたび、笑い声が増えてゆく。それを見守るのが私の日課になっていた。
 それでも私は、あなたの後をついてゆく。

 ふと、私の前を歩いていたあなたが振り返り、靴跡を指差した。
「ほら、見てごらん。こいつは昔っから雪に足を突っ込まないように、俺の踏んだ後を歩いてくるんだ」
「まあ、本当。上手に足跡の上を踏んでるのね」
 両親の会話の間に、幼い娘が歓声を上げる。
「猫の足跡ってお花みたい!」
 その言葉に、夫婦は顔を見合わせて笑った。

 ――それも、いいかもしれない。

 おいで、と差しのべられた手に、私はそっと頬を寄せる。温かな手のひらの温度が心地良い。

 これが私の幸せ。靴跡に咲く花のように、私は彼らの幸福に添える花になろう。


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