白日夢


 翌日の空は、エーゲ海の色にも劣らぬほど深く澄んだ青だった。石造りの家屋の白い壁が陽光を乱反射し、その眩しさにイリアは目を細める。
 彼女の隣では、体力の回復したリュシアスが黒い瞳を輝かせて、街の城壁を覗き込んでいた。
「ほら、見てごらん。ここに小さく彫られているのが失われた文字なんだ」
 城門の獅子が見下ろす城壁の一角を指差して、リュシアスがイリアを振り返る。その顔はやや紅潮していて、はしゃいだ子供さながらだった。
「失われたって……ここに残ってるじゃない」
 昨日まで疲労困憊していた人間の豹変ぶりに当惑しながら、イリアは聞き返す。
「これは古い時代の文字で、今は誰も使っていないんだ。読むことも、書くこともない」
「今の文字と同じようにしか見えないわ」
 イリアは字を読むことはできないが、書きつけられた文字を見たことは何度もある。それは粘土板に棒切れで引っ掻いたような線文字で、今目の前にある文字とほとんど相違なかった。そのため、こちらが古くてすでに失われたものだと言われても、いまいち実感が湧かなかったのだ。
「そうだろうね。今の文字は、昔のものを参考にしてできたものだから。でも、昔は話されていた言葉自体が、今とは全然違うんだ」
「ふうん。それで、ここには何て書いてあるの?」
「ここは城門の近くだからね。悪いものが入ってこないようにという魔よけの言葉が彫られてる。今となっては何の意味もないけど」
「……どういうこと?」
 リュシアスの最後の台詞に、イリアは眉をひそめた。それまで文字を見つけて喜んでいたはずの彼の声に、どこか不穏な響きを感じ取って、彼女は聞き返す。だが、彼が口を開くよりも先に、少し後ろから聞き慣れた声が上がった。
「お二人とも、そろそろお昼になさいませんか?」
 二人の間にさりげなく割り込んできたのは、今日もイリアのお供としてついてきたラウィニアだった。
「やあ、ありがたい。夢中になると、どうも時間を忘れてしまって」
 今しがたイリアにかすかな不安を抱かせた口調とは打って変わって、リュシアスは嬉しげに表情をほころばせた。
 昨日までラウィニアは二人の前に出てくることはせず、物陰からこっそり覗いていたのだが、今日は初めからイリアのそばについていた。だからリュシアスにしてみれば初対面のはずなのだが、いきなり現れた彼女のことを気にするふうもない。今も、見晴らしのいい場所でお昼にしようなどと、硬い表情のラウィニアに明るく話しかけている。
 ずいぶん人懐っこい性格だと半ば感心しながら、イリアはリュシアスの先導する場所へと向かった。

 そこは街外れの、海の見える丘の上だった。海辺といっても岩場が多く、また潮の流れが急なので船を着けることができない。そのため、人通りもなく海鳴りだけが耳に届く、ひっそりとした場所だった。
 そこの古びた建物の壁に背を預けながら、リュシアスは用意された昼食をまたかなりの勢いで平らげていった。
「……相変わらずお腹が減ってるみたいね」
 イリアが半ば呆れたような目を向けると、リュシアスは平然と返した。
「うん、育ち盛りだからね」
 いい年をして何が育ち盛りだ、とイリアは思ったが、声には出さなかった。見たところ二十代後半のこの男が、成長期のさなかだと言っても誰も信じてはくれないだろう。
 そんな彼女の内心を知ってか知らずか、リュシアスは食べ終えた口を手の甲でぬぐいながら、不意に思いついたように質問した。
「ところで君たちは、毎日街外れまで下りてきて怒られないの?」
「――どうしてそう思われるのですか」
 イリアが口を開く前に、険しい声を上げたのはラウィニアだった。彼女は他の二人が昼食を摂っている間も、ずっと神経を尖らせていたのだ。
 だがリュシアスは、ラウィニアの睨むような視線など気にもせず、軽く笑いながら手をひらひらと振ってみせた。
「そう警戒しないでほしいな。お目付け役といつも一緒に街へ出てくるなんて、相当な家柄のお嬢様なんだろうと思っただけだよ」
「……私はお目付け役ではありません」
 反駁するラウィニアの表情は苦い。何の説明もしていないのに、どうやらリュシアスは彼女たちの身の上を察しているようだ。だが、だからと言って自ら認めるわけにはいかない。
 唇を噛みしめながらラウィニアが次の言葉を探していると、隣でイリアが唇を尖らせた。
「どうせお守だって思ってるんでしょ」
「お嬢様!」
 そう叫んだ瞬間ラウィニアは、はっとして口をつぐんだがもう遅かった。咄嗟のこととはいえ、自分でイリアの素性を明かしてしまったのだ。悔しさにうつむくラウィニアを見ながら、リュシアスはくすくすと笑いをこぼした。
「いいっていいって。君は向こうに見える大きな屋敷のお嬢様なんだろう?」
「どうしてそんなこと知ってるの?」
 イリアが目を丸くして訊くと、リュシアスはのんびりとした動作で上の方を指差した。
「そこの櫓に登った時、君に似た人影があの屋敷の庭に見えたから、そうじゃないかと思ったんだ」
 リュシアスの人差し指の先が示したのは、背後にそびえる古びた建物だった。石造りの土台は苔むして、一目見ただけではそれが何なのか判別しがたい。
「あ、これ櫓だったの? ずいぶん古くなってるみたいだけど」
 目を凝らしてみて、イリアはようやくそれが昔に使われた物見櫓らしいとわかった。
 潮風を受けて色あせたその櫓は、ますます古めかしさを増している。いったいいつ頃に建てられたのだろうと、もともと旺盛な好奇心がうずき始め、イリアはラウィニアの制止する声も無視して櫓に近づいていった。
 一度興味を覚えたら、飽きるまで目を離さないイリアの性格を充分知り尽くしているラウィニアは、深く溜息をついて、もはや止めるのは無駄だとあきらめた。
 そして、そんな二人のやり取りを面白そうに眺めていたリュシアスに、ラウィニアは毅然と話しかけた。
「あなたは先ほど、お嬢様がいつも私と一緒に街へ出るとおっしゃいましたが」
「そうだったかな」
 軽く首をひねるリュシアスに、ラウィニアの口調はさらに厳しくなる。
「私があなたの前に姿を見せたのは、今日が初めてのはずです。あなたはいつから私とお嬢様が一緒だと知っておられたのですか」
 ラウィニアの顔つきからは、イリアと向き合っている時のような穏やかさが消えていた。しかし、彼女の勁い視線にまっすぐ射抜かれながら、リュシアスはゆるく微笑を浮かべたままだった。
「さあて、何しろ腹が減っていたものだから、記憶が不確かでね」
「この際ですから、はっきり申し上げますけれど――」
 ラウィニアがさらに言いつのろうとしたその時、頭上からはしゃいだ声が降ってきた。
「わあ、いい眺め! 街外れにこんな見晴らしのいい場所があるなんて知らなかったわ」
 見上げると、物見櫓の最上階から顔を出したイリアが、嬉しそうに周囲を見回していた。古びた櫓から上半身を乗り出させた姿を見て、ラウィニアは思わず悲鳴混じりの声を上げた。
「お嬢様、あまり身を乗り出さないでください。ずいぶん古いもののようですし、崩れたら一大事です!」
 蒼ざめて叫んだラウィニアの肩を、リュシアスがぽんと軽く叩いた。
「大丈夫だよ。僕もこの前登ってみたけど、かなり頑丈そうだったし」
「でも……」
 詰問していたはずの相手からなだめられて、ラウィニアは少なからず困惑した。だが、そんな会話とは無関係に、イリアは楼上から手を振りながら大声で叫んだ。
「二人とも上がってきなさいよ。風が気持ちいいわよー!」
 イリアに手招きされて、リュシアスは意気揚々と櫓の階段を上り始めた。一瞬たじろいだラウィニアだったが、楼上で二人きりにはさせられないと、彼女もまた渋々続いた。
 二人が最上階に着くと、イリアは海風に髪をなびかせながら、外の景色を指差した。
「ここから街が一望できるのよ」
 イリアが示したのは、海とは反対側の方向だった。石造りの城壁に囲まれた街並みが、この物見櫓から一望できる。特にその中でも際立って威容を示しているのが、イリアの住む屋敷だった。はるか昔に建てられたという大きな建物は、これまでに幾度も改修されて、そのたびに堅固さを増している。まるで、父レオゴラスの権勢を示すかのように――
 不意に浮かんだ父親の顔を脳裏から追い出したところで、イリアは脇に控えるラウィニアの様子がおかしいことに気づいた。
「ラウィニア、大丈夫? 顔色が悪いわよ」
「いえ、その……下を見ていたら、少し気分が悪くなっただけですので……」
 本人は少しと言うが、額に浮かんだ脂汗が真実ではないことを物語る。
 というのも、ラウィニアの立つ位置からは遠くの街並みや紺碧の海よりも、真下の切り立った断崖のほうがよく見えたのだ。誤って落ちたりしたら、険しい岩場に体を打ちつけて死に至るに違いない。そんな恐ろしい想像をしたせいで、彼女は急に気分が悪くなったのだろう。どうしたものかと困惑するイリアの隣で、リュシアスが口を開いた。
「高いところが苦手なんだね。でも心配ないよ。下に降りればすぐ気分がよくなるから」
「お気遣いなく! ここで少し休めば大丈夫です!」
 ここで自分が降りて、二人きりにさせるものかと、ラウィニアは蒼ざめた顔でリュシアスの助言を突っぱねた。
 こうなっては、てこでも動かないことを熟知しているイリアは、ラウィニアにしばらく外を見ないで座っているよう告げた。本来ならラウィニアの体を気遣って、一緒に降りてくるところなのだが、この時の彼女はまだあり余る好奇心を満たしてはいなかったのだ。
 そうして櫓の外をぐるりと見回し、内部もくまなく観察しているうちに、彼女はまた驚きの声を上げた。
「あ、ここにも何か文字があるわ!」
 イリアが指差したのは、窓の下の壁だった。少しかがんだ姿勢で、彼女はそこに刻まれた古い文字に見入った。
「へえ、何が書いてあるのかな」
 リュシアスが横からその壁の文字を覗き込むと、イリアが好奇心たっぷりの瞳で振り返った。
「ねえ、これもその失われた文字なの?」
「そうだね……これは昔の文字だ。さっきの城門の近くにあったのとは、また違うことが書いてある」
「じゃあ、ここには何が書いてあるの?」
 イリアが重ねて訊くと、リュシアスはほんの少しだけ間を空けて答えた。
「――祈りの言葉」
 短く言うと、リュシアスは静かな声音でそれを読み上げた。目を軽く伏せながら、過去をなぞるようにゆっくりと。
 イリアは瞼を閉じてその声に聞き入った。何という意味かはわからない。だが、遠い時代の人々が捧げた祈りの言葉は、聞く者に敬虔な気持ちを抱かせるほど、美しく澄んでいた。
 さほど長くないその言葉を、リュシアスは幾度か繰り返すと、イリアにも一緒に唱えるよう誘った。初めは戸惑った彼女だったが、やがて美しい調べに酔いしれるように、リュシアスとともに祈りの言葉を口ずさんだ。
 二人の唱和が溶け合い、響き合う。ゆるやかな旋律が風に乗って運び去られた頃、イリアはリュシアスに向き直った。
「……これは、どこの言葉?」
 ともに古い祈りを唱え終えたリュシアスに、イリアはそっと訊く。返ってきたのは、わずかに蔭った微笑だった。
「今はもうない国の言葉さ」
 リュシアスは伏せていた瞼をゆるやかに持ち上げる。その開かれた瞳は、海の向こうを見つめていた。東の彼方、陽光のきらめく水平線を。その視線になぜか不安を覚えて、イリアは早口で問いかけた。
「で、でも、どうしてそんな言葉が街に残ってるのよ。もう遥か昔になくなったんでしょ?」
「その滅びた国があったのが、ここだからさ。今の民が先住民を滅ぼして城塞を建てた時に、前の城の跡が残ったままになったんだ」
 振り向いたリュシアスの瞳がまっすぐイリアを見つめる。にわかに息を呑んだイリアに視線を向けたまま、リュシアスは続ける。
「先住民は争いを好まないたちだった。だから、城壁を高く造って侵入に備えようという考えもなかった。そこへ、北からやってきた異民族が、鉄の武器を持って彼らを滅ぼした。そうして奪い取った都市を、また誰かに奪われないように、民たちは今の堅固な城塞をこしらえたんだ」
「北の……異民族……?」
 その言葉は昨日から何度も聞かされたものだった。人々は北の脅威を訴え、蔑みながらもどこか怯えている。
 だが、彼が指すのは別の民だ。かつて住んでいた種族を滅ぼして定住し、今ここに城壁を築いている民とは――
「お嬢様! 早くお戻りください!」
 それまで傍らで二人の会話を聞いていたラウィニアが突如、大声を上げた。それは忠告と言うより、ほとんど悲鳴に近かった。だが、凍りついたままのイリアはその時、身動きどころか声一つ出すことさえできなかった。
 呆然と立ち尽くす彼女に、リュシアスはゆっくりと真実を告げる。
「――そう、君たちのことだよ。昔、君たちの種族はもっと北の、山の向こうに住んでいたんだ」
 そう語る声音は相変わらず穏やかなのに、先程とは何かがひどく違っていた。声に直接触れることができれば、すぐにわかっただろう。無邪気に城壁の文字を探っていた時とは、その温度が明らかに異なっていたことに。
「あなたは――誰? 何者なの……?」
 ようやく声を出すことができたイリアは、だが動揺の色を隠すことはできなかった。
 行き倒れていた人間に対し、親切心を起こして助けただけのつもりだった。意識を取り戻してからも、その凡庸そうな風情から、無害だろうと勝手に思い込んでいた。
 だが――古代の文字を尋ねて回り、失われた過去を暴こうとするこの男は、いったい何者なのだろうか。
 イリアの意識は、目の前に立つ正体不明の男に集中していた。そのため、彼女たちのすぐそばまで迫っていた人の気配に気づくのが遅れてしまった。
 先に気づいたのは、階段の近くにいたラウィニアだった。ばらばらと不揃いの足音がすぐそばに聞こえ、はっとして彼女は振り返る。すると、そこに見知った顔があった。
「お探ししましたぞ、お嬢様」
「コノン!? どうしてここへ……!」
 真っ先に口を開いた男の顔を見て、イリアは驚愕の声を上げた。屋敷の使用人頭にして、主人レオゴラスの有能な右腕であるこの男が、こんな場所に現れるとは、予想もつかなかったのだ。
 しかし、コノンは驚きのあまり声を失うイリアには目もくれず、脇に控えるラウィニアを一瞥すると、大喝した。
「ラウィニア! どうやらおまえは人の忠告が聞こえなかったようだな。お嬢様をこのようなところへ連れ出すとは――」
 だが、コノンの叱責は突如上がった大声によって中断された。
「ラウィニアは悪くないわ! 私がわがままを言ってここまで来たんですもの。ラウィニアを責めるのは筋違いよ!」
「……お嬢様?」
 自分のせいでラウィニアが怒られてはたまらないと、叱責を受ける本人よりも先に、イリアが異議を唱えたのだ。当のラウィニアは、コノンに対する弁明を奪われた形になり、自分を庇う主を驚いたように見つめた。
 しかし、コノンはイリアの言葉など無視して、わざとらしく大きな溜息をついてみせる。
「まったく、お嬢様の酔狂には驚かされますな。無断外出にとどまらず、このような素性の知れない男と、怪しげな蛮族の言語を詠唱されるとは」
「……盗み聞きとは趣味が悪いわ」
 イリアは忌々しげに低い声を押し出した。
 こんな寂れた人気のない場所だからこそ、気ままに古代の言葉をリュシアスとともに読み上げていたのだ。他に聞く者など、ラウィニアを除いているはずもなかったから――。
 それなのに、この男は自分たちの行動を陰でじっと観察していたのだ。陰湿なやり方に、イリアの声も自然、苦いものとなる。
「ここは風の流れで、上の声も地上までよく響いてきましてな、幸か不幸か」
 彼にとっては紛れもなく幸だったのだろう。そう告げるコノンは、主の娘に対しているとは思えないほど不遜な態度で迫る。
「いずれにせよ、その男の身柄はこちらで預からせていただきます。旦那様にご報告申し上げねばなりませんので」
「どうしてお父様に報告しなきゃいけないのよ! いったい何するつもりなの!?」
「お嬢様、そのような得体の知れない男を庇い立てなさいますと、ろくなことになりませんぞ。おおかた、その男に騙されておられるのでしょうが」
 ――得体の知れない男?
 ――騙されている?
 いったい何を言っているのだろう。自分勝手に決めつけて、後は邪魔とばかりに、ていよく追い払おうとする。丁寧な口調とは裏腹に横暴なコノンの態度に、イリアはますます腹を立てた。
「何、勝手なこと言ってるの? 騙されてるって何よ! 行き倒れてた人間を介抱したくらいで、どうしてそんなこと言われなくちゃいけないのよ! 私は――」
「もういい、その辺にしておきなよ。君まで仲間だと思われたら困るだろう」
 さらに言いつのろうとした彼女を遮ったのは、それまで沈黙していたリュシアスだった。彼は彼女を制すと、なめらかな動作でゆっくりと立ち上がる。
「君たちは僕に用があるんだろう?」
「う、うむ……」
 あっさりした口調で言われ、コノンはかえって拍子抜けしてしまったらしい。だが、それでは威厳が保てないと思ったのか、一つ咳払いすると改めて宣告した。
「我が主人、レオゴラス様の元へ来てもらう。――おまえたちはお嬢様をお連れしろ」
 コノンの指示を受け、従者たちの半数はリュシアスを両側から取り押さえ、残りの半数はイリアとラウィニアの腕や肩をつかんで、その行動を規制した。
「ちょっと、何するのよ! 離しなさい!」
 従者の男二人に両腕を抑えられ、イリアは身動きできない。いくら暴れたところで、少女一人の力では、屈強な男二人に対抗できようはずもないのだ。
 そして彼女の目の前で、厳重にも四人の男たちに取り囲まれたリュシアスは、前後左右を固められたまま、地上へと連れられてゆく。
「リュシアスをどうするつもりなの!」
 従者たちの先頭に立って階段を下りようとするコノンの足が、わずかに止まる。そして彼は、叫んだ少女を振り向いて厳かに告げた。
「この男は、滅亡した先住民の生き残りなのです。おおかた我々に復讐しようと企んで、街に入り込んできたのでしょう。我々はそれを調べねばなりません。――さあ、さっさと来い」
 最後の台詞はリュシアスに向けられたものだった。指示を受け、従者たちはリュシアスを小突いて先を急がせる。
 そのような手荒な扱いを見れば、普段のイリアだったらさらに大声で文句をつけていただろう。だが、彼女はこの時、その様子をどこか遠い光景のように眺めていた。
「先住民……の、生き残り……?」
 口の中が干上がったかのように、わずかに漏れた声がかすれる。
 彼女は呆然と、父の従者たちに引っ張られてゆくリュシアスの後ろ姿を見送ることしかできなかった。

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