お題 「電車」 電車の旅は人生に似ている。
「終点にて」
一輌ずつ見回って、最後の車輌で私は、眠りこける一人の女性に気づいた。 どうやら寝過ごしてしまったのだろう。よくあることだが、起こしてやるのも車掌たる私の役目だ。 「お客様、終点ですよ」 揺り起こすと、彼女はゆっくり瞼を持ち上げた。少し色素の薄いその瞳に見つめられ、私はどきりとした。 「ごめんなさい。最近よく眠れなくて」 ――ああ、そうか。 一礼して消えた彼女の言葉に、私は納得した。 彼女が永く眠れるよう、今度の回送列車には、花でも供えてやろう。
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