断章
ティツィアーノ・ヴェチェリオ作『ウルビーノのヴィーナス』――ヴェネツィア派の巨匠によるこの絵は、裸婦画の歴史の礎を築いたといっても良い、革新的な作品である。
しかしこの名画の誕生の前に、欠かせない作品がある。
『眠れるヴィーナス』――作者のジョルジョーネは、ティツィアーノの師匠であったと言われる。
横たわる裸婦という題材は、このジョルジョーネが先鞭をつけた。後に描かれたティツィアーノの作品よりも、全体的に神秘性が漂い、「女神」らしさが感じられる。
しかし、この『眠れるヴィーナス』の作者は、時に「ジョルジョーネとティツィアーノ」と、二人の名が冠せられる。
なぜなら、ジョルジョーネが三十二歳の若さでこの世を去った後、未完成だった作品を弟子のティツィアーノが仕上げたからである。
最後には袂を分かち、縁を切っていたと言われる二人だが、師匠の死後、彼の遺した女神をこの世に送り出したのがティツィアーノだった。
彼は、ジョルジョーネの教えを継承していたのだろうか。二人の「女神」は趣がずいぶん異なるため、その判断は難しい。
しかし、まったく同じ題材、構図で絵を描こうとしたことが、その答えを示しているとも考えられる。
そこには、師から学び取ったすべてのものが描き出されているはずだから――
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