[後悔の大航海]

この大航海体験館とは、スクリーンの映像に合わせて船の揺れを体験できるという代物です。船旅のシナリオは2種類に分かれ、我々が見たのはポルトガルからはるばる江戸の将軍様のもとへシャンデリアを届けるという話でした。
「父さん、僕も連れていってください!」
任命されたおっちゃんに向かって叫ぶのは、まだ若い息子のハンス。父がたしなめても息子は言うことを聞かず、結局根負けして随伴することになりました。

さあ前振りは終わり、いよいよ船はシャンデリアとハンスを積み込んで、黄金の国ジパングへと出港です。
初めは海も穏やかで、航海は至って順調。当然、座席の揺れもゆったりとしたものでした。
が! それも束の間、次第に海は荒れ始め、ついには大嵐がやってまいりました。雨や風はさすがにこちらまで来ませんが、問題は今にもひっくり返りそうなひどい揺れ!!
ぐらんぐらんがくんがくん。右に左に後ろに前に。めちゃくちゃに我々乗員を振り回します。

――うっ! やばい!!

何がやばいのかって、さっきムリヤリ詰め込んだクリーミィなクレープ2枚ですよ! すでに焼け気味だった胸は今にもはち切れそう――というか、中身がはじけてリバースしそうなんですってば!! くそう、チョコレートハウスめ! そんな呪詛の言葉も何の役にも立ちません。
……そうこうするうちに、ようやく嵐が収まってまいりました。
ハンス「ああ、助かった……」
それはこっちの台詞だっての。

しかしこんなもんで大航海が済むはずがない。
がっくん! と、いきなり船が揺らぎました。なんと――砲弾が降ってきた!?
うおおっ、という下品な叫び声。そう、今度は海賊のお出ましです。
どかーん! がづーん! わあああっ! と、騒々しい。そして船の揺れは凄まじい。

(た、助けてくれー!!)←北見、心の叫び

海賊からではなく、胃の蠕動から救ってくれ!!
そんな一人の乗員の懇願を嘲笑うかのように、戦いは佳境に。船内には火の手が上がる。逃げ惑う人々。泣きわめく声。阿鼻叫喚。地獄絵図。地獄の沙汰も金次第。(←?)

父ちゃん「ハンス! ハンスはいるか!?」
ハンス「父さん……」

どうやらハンスは虫の息らしい。どうしてそうなったかはちっとも覚えちゃいませんが。それどころではなかったのでね。
激しく揺れ続ける船の片隅で、父ちゃんは息子の体を抱きかかえる。

ハンス「………」(何か呟いて絶命)
父ちゃん「ハンス! ハンスーっ!!」

ええい、うるさい! こちとら必死で吐き気と戦ってんだ! わめくんじゃねえ、オヤジ!!――と、心の中で叫べども、ハンスの父には届かない。

その後も船はぐらんぐらんゆらんゆらんと揺れながら、ようやく江戸に着きました。あれだけ大騒ぎしてハンスまで死んだのに、シャンデリアは無事だったもようです。
そして北見も孤独な死闘から解放されました。しかし、当然足取りはおぼつかない。船酔いとクレープ酔いを引きずりつつ、北見はようやくの思いで忌まわしきハンスの館を後にしました。ふと時計を見やるともうお昼。どうやらここがハウステンボスで見る最後のアミューズメントとなったようです。それに気づいた時、何だか気が遠くなりました。なぜ、どうして、よりにもよって大トリにここを選んでしまったのでしょう。
――まさに後悔、に立たず。

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